2011年10月9日3時。西日が差す、病院から。

私は今、
病室で痩せ衰え、眠ってばかりいる母の隣にいる。
時々起きても言葉は不明瞭で、箸すら落とす程に力無く、その目に光は無い。
腹を痛めて私を生み、自分のほぼ全ての時間を使い、私を育て、私と言う一個の全人格を作ってくれた、私にとって最も、影響深く、恩を感じ、愛している人だ。
西日が差し込むその部屋で、僕と二人。眠っている。
たまに起きると、ちょっと笑う。
力ないけど上品な母の、いつもの笑顔だ。
その笑顔にとても助けられる。
どんどん、痩せて行く。
痛いと言う事すら無い。
ああしろこうしろと文句を言う事も無い。
毎日やりとりをしていたメールすら、もう打てない。
この人は、もう遠くない未来、居なくなるのだな。
と理性が告げる。
暖かい肌の温度も、
優しい声も、
私を叱咤する事も、
祝ってくれる事も、
喜びをともにする事も、
僕の子供を抱いてくれる事も、
子供の世話を手伝ってくれる事も、
昔話や、馬鹿話をする事も、
きっとなくなってしまうんだな。
起きて、文句くらい言ってくれ。
なんか欲しいとか、食べたいとか、やっぱり寿司がいいとか、あれをとれとか言ってくれ。
髪を切れとか、野菜食えとか、ボタン縫ってやるとか、ちゃんと洗濯してるのかとか言ってくれ。
なんにも言わないのは、やっぱり淋しいじゃないか。
と文章を起こしながら自分の気持ちを整理しなくてはならないと思いながら、ポチポチと打ってたら、現実と感情が押し寄せてきて一人涙が止まらなくなる。
気持ちなんて、整理するもんじゃないな畜生。
あー、畜生。
今は眠っている頬に触れ、
この時を、
感じ、
感じ切り、
感謝しつくし、
細かな、
ほんの微細な所まで、
徹底的に、
覚え、
身に刻みつけて、
貴女が居なくなった後も、
貴女に貰った愛を、
自分の生を生きるその糧にするよと、
自分の心にそっと、
誓う。
それしかできない。
ごめんね。
ありがとう。

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