先週あたりから桜が咲き始めた。
桜の花びらが、街の至る所で舞っている。
ひらりひらひらり。
桜は僕をどうしようもなく切なくさせる。
この一年は、感情を一つ一つ無くす一年だった。
都会では、ビジネスでは、余計な感情は足枷にしかならない。
まだその住み分けが上手く出来ない僕は、まるで咲き始める蕾を一つ一つ摘んでいくような、そんな作業をせざるをえなかった。
桜が舞う。
咲き誇るあの桜の、あの色彩が僕の胸を締め付ける。
複雑な色彩が折り重なる。
その全てが動いている。枝、葉、花、花びら。全てがさざめいている。
ああ、動いている。
生きている。
そこに在る。
都会に、擂り潰された感性をちょっとくすぐったのは、桜なんだった。
一年に一度だけ咲く桜。
その数週間の為だけに庭にデカい桜を植える馬鹿な日本人。
この季節は街の至る軒先でそんな馬鹿を見掛ける。
馬鹿をみて、感傷を抱く馬鹿もいれる。
僕は、桜が好きな馬鹿な日本人が大好きだ。
もし将来に小さい小さい家でも構える事ができたら、その時には庭に一本の桜を植えよう。
一年一年を噛締めよう。
そしてゆっくり年をとろう。
朽ち果てた僕がいなくなった後の春も、元気に咲き誇る桜を想像して、脳内に沸き起こるこの快感物質の正体を、僕は知らない。